最近の葬儀サービス・お墓事情
変わる葬儀サービス
昨今、亡くなって葬儀業者の世話にならない人は、ほとんどいないでしょう。仮にお葬式をしないとしても、棺の用意や火葬場までの搬送を葬儀業者に依頼するのが一般的です。
お葬式の良しあしは、担当するスタッフの質によって大きく変わるので、従業員が何人もいる大きな葬儀業者がよいとは限りません。
見積もり額が安い業者は、安かろう悪かろうという可能性も考えられます。むしろ、見積もりの内容や項目が明確であるか、1つひとつについて納得できる説明をしてもらえるかが重要です。
自宅でお葬式が行われるのが一般的だった頃には、葬儀業者の主な仕事は、自宅での祭壇の設営や飾りつけ、幕張りなどでした。
現在、お葬式を請け負う業者には、専門葬儀業者のほかに、冠婚葬祭互助会(以下、互助会)もあります。互助会は、月々定額を積み立てて、結婚式やお葬式の費用に充てるしくみで、戦後に誕生しました。
昨今のように、結婚しない(あるいは、派手な結婚式をしない)、お葬式をしない(あるいは、家族だけでこぢんまりとしたお葬式をする)といった選択肢を誰も想定していなかったため、家庭内で必ず出すことになる結婚式やお葬式の費用を準備しておこうという消費者側のニーズもありました。バブル期には盛大な葬儀が増えたこともあり、1990年代以降は互助会や葬儀業者にすべてを任せるようになりましたが、同時に葬儀費用が高騰したため、ますます事前にお金を備えておく必要が出てきたのです。
ちなみにお葬式にかかる費用には、大きく分けて「葬儀施行費用」「飲食接待」「宗教費用」があります。参列者の数によっても費用は違いますし、宗教色のないお葬式では宗教費用はかからないなど、どんなお葬式にするかによっても異なりますが、葬儀費用の平均は年々、下がる傾向にあります。最近では、インターネットを通じて葬儀の見積もりを提示し、葬儀業者を遺族に仲介する業者が何社も出てきています。
仲介業者自体は葬儀業者ではないので、何かトラブルがあったときに責任の所在がはっきりしないほか、提携する葬儀業者がそもそも良心的なのかどうかが分からないという問題もあります。
互助会や葬儀業者と生前に契約したり、仲介業者に紹介してもらったりする場合には、自分はどうしたいかを家族と一緒によく話し合ったうえで、数社から見積もりを取って、依頼先を決めておきたいものです。
規模の小さなお葬式
ここ数年、参列者が少ない規模の小さなお葬式が増えています。
公正取引委員会が2005年に葬儀業者に行った調査によれば、個人葬の参列者数が5年前と比較して減少したと回答した業者は67.8%に上りました。
第一生命経済研究所が2012年に実施した調査では、「身内と親しい友人だけでお葬式をしてほしい」と回答した人が33.1%、「家族だけでお葬式をしてほしい」と考える人が30.3%おり、合わせて6割以上が、家族を中心としたお葬式を希望していました。一方で、「従来通りのお葬式をしてほしい」と考える人はわずか9.0%にとどまりました。
家族だけで、あるいは家族と親しい友人だけでお葬式をしたいと考えている場合、いつの時点で、誰に死の事実を知らせるかというタイミングがとても重要になります。
亡くなってすぐに故人や遺族の関係者に訃報の連絡をすれば、家族葬をしようと思っていたのに参列者が大勢集まったという想定外のことになりかねません。
故人が非常に高齢で、遺族の数が少ない場合には、火葬のみですませるという遺族もいます。遺族数人だけのお別れであれば、華やかな祭壇を作ったり、葬儀会館を借りたりせず、自宅で故人と静かに一晩を明かしたいと考える傾向があるからです。
東京都内ではこうした「直葬」は3割近くに上るとされています。またお通夜をせず、告別式から火葬までを1日ですませてしまう遺族もいます。
こうした1日葬は、高齢の親族が遠方から参列するなど、遺族の都合が優先されることが多いようです。
家族を中心にした小規模なお葬式の中にも、さまざまなやり方があることが分かります。しかし参列者が少ないからといって、家族葬の費用負担が少ないとは限りません。香典が入らないので、葬儀費用のほぼ全額が遺族の自己負担となることに留意しなければなりません。
家族葬では、料理や花などオリジナルの演出に費用がかかる可能性もあります。費用の面以外でも、義理や世間体を重視するのではなく、故人と親しい人だけで送りたいと、家族葬を選ぶ人もいます。
これまでのやり方のお葬式では、義理で参列する弔問客の応対に追われ、故人とゆっくりお別れできないという不満や、お仕着せのお葬式のあり方に疑問を抱く遺族も増え、こうした不満が「家族だけで葬儀をしたい」という意識につながっています。かつてのように白や黄の菊だけの祭壇ではなく、色とりどりの洋花や故人が好きだった色をイメージするなど、明るい雰囲気の祭壇が増え、故人が好きだった歌を流したり、合唱したりする演出もよく目にするようになりました。
多様化するお墓
お墓についてもバブル期以降、元気なうちに選んでおく人が増えています。
生前建墓が相続税対策になると、墓石業者が触れ込んだことが背景の1つにあります。
日本のお墓は、子々孫々での継承を前提としているところに特徴があります。
しかし昨今、少子化、非婚化、核家族化が進み継承者がいない家庭が増えています。
子孫がいても遠く離れて暮らしていれば、頻繁にお墓参りするのは不可能です。
実際、墓や祭さい祀しの継承が困難になった無縁墓の増加が全国各地で問題となりつつあります。
今後30年間は、死亡人口が急増する反面、人口の減少でお墓を守る人が少なくなります。
過疎化が進む地域では、無縁墓が増加するのは明らかで、子々孫々での祭祀継承が現代社会にそぐわなくなっているのです。
そのためいわゆる「墓じまい」という墓の引っ越し、「改葬」をする人もいます。
改葬は、現在の墓地の所在市区町村で改葬許可の手続きをする必要があるので、勝手に移転することはできませんし、更地にして返還しなければなりません。
地方から子孫が住む都市部への引っ越しもありますが、寺院墓地から民間霊園や公営墓地に移す人も少なくありません。
寺院墓地に墓があると、墓の年間管理料以外に、護持費(寺院の維持管理費等)や盆・彼岸のお布施などの出費があったり、本堂建て替えや修理のときには寄付をしなくてはならなかったりすることが、重荷になっているようです。
こうした菩ぼ提だい寺との関係を切るための改葬が最近目立っているように感じます。ところがお墓を引っ越しする際に、お寺が法外なお布施を要求し、トラブルになることもあります。墓地の管理者である住職が「埋葬証明書」を出してくれなければ改葬許可が下りませんので、境内墓地にお墓がある場合は注意が必要です。
お墓を引っ越し、檀家をやめる際には、これまで世話になったお礼を包むのは当然ですが、こうした法外な「離檀料」を請求された場合には、お寺が所属する宗派の本山に相談しましょう。
ちなみに「離檀料」という概念自体、ありません。
一方、継承を前提とする祭祀財産としてのお墓のあり方に疑問を持つ人もいて、また、継承を前提としない「永代供養墓」や、血縁を超えた人たちと一緒に入る「合葬墓」への関心が高まっています。
このタイプのお墓は子々孫々での継承を前提としていないので、お寺や自治体が存続する限り、無縁化する可能性がありません。たくさんの人が納骨されているのでお参りする人が絶えないという利点もあります。お墓に対する価値観は人それぞれで、「血縁がなくても大勢で入れば、にぎやかでいい」と考える人もいます。もちろん、家族で入ることも可能ですし、経済的な理由で選ぶ人も少なくありません。
個別に墓石を建てないので、合葬式のお墓は一般的に費用が安いからです。
なかでも、墓石の代わりに木を植える樹木葬墓地は、ひとつの木の下に大勢を納骨する形式が一般的で、墓石がない分、さらに廉価な費用で納骨できる場合が多いようです。
手元供養(遺骨を自宅で安置すること)や散骨など、お墓に入らない選択をする人もいます。「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、墓埋法)では、遺骨を墓地以外に埋蔵してはならないとしていますので、手元供養は問題ありません。散骨についても、自治体の条令で禁じていない限りは規制の対象外です。
実際、第一生命経済研究所の調査では、自分のお墓は要らないと考える人は2割以上に上っています。
社会の変化や価値観の多様化で「死んだら先祖とお墓に入るのが当たり前」とは限らなくなっていることが分かります。
「お墓を買う」とは
ところで、そもそも「お墓を買う」とはどういうことなのでしょうか。
実は、墓石が立っている土地は使用者のものではありません。
お墓を買うとは「墓地の永代使用権を取得すること」をいい、専門的には、霊園の運営主体と墓所使用契約を締結することを指します。
また永代使用の「永代」は永久や永遠ではなく、代がある限りという有期限を意味します。つまり、永代使用権とは、使用者が途絶えない限り、墓地を使用できる権利であって、墓石を建てるための土地を買ったのではないのです。簡単にいえば、借地に自費で墓石を建てるのですから、使用する人が責任をもって管理できなくなれば、使用権は消滅することになります。
ちなみに、更地にしても永代使用料は返還されませんし、永代使用権や土地を転売することもできません。
1999年に墓埋法が一部改正され、無縁墓の手続きが変更されました。墓地の運営者は、無縁墓になっていると思われる場所の使用権を持っている人に対して、1年以内に墓地事務所に申し出ることを官報に掲載すると同時に、そのお墓がある場所に立札を1年間掲示します。
そのうえで、1年以内に申し出がなかった場合に、墓地の運営者は無縁墓を撤去できます。
お墓を建てるときに必要な経費には、大きく分けて「永代使用料」「年間管理料」「墓石建立費用」があります。「永代使用料」は永代使用権を取得する費用ですので、墓地運営者との間でいったん使用契約を締結すれば、解約しても返金されない点に注意が必要です。また「年間管理料」は、墓石を建てなくても、契約時からかかります。年間管理料自体は数千円程度ですが、滞納すれば使用権が抹消されたり、無縁墓と見なされ、前述のような無縁墓の手続きに入ったりする可能性があります。
例えば東京都の都立霊園の場合は、年間管理料を5年間滞納すれば使用権は抹消されることが、霊園規則にうたってあります。
一方、「墓石建立費用」はどんなお墓を建てたいかによって大きく変動します。墓石購入契約は、石材店との契約です。建立費用には、墓石費用以外に、石の加工費や施工費、外柵費用がかかります。
最近は、故人の趣味だったピアノや自宅等をかたどったオリジナルの個性的な墓石が増えていますが、手の込んだ形の墓石も加工費が高くなりがちです。
ロッカー式の納骨堂であれば墓石建立費用はかかりません。
死の迎え方や葬送の選択肢が増えた背景
「終活」という言葉が流行し、人生の締めくくり方を元気なうちに考え、準備しておこうという気運が中高年の間で高まっています。しかし死は当人だけの問題ではなく、死者を取り巻く家族や友人、ひいては誰もが死にゆくという意味では、社会全体の問題なのです。ところが終活は、「私の死」という視点が大きくクローズアップされ、「大切な人の死」を体験する遺族への配慮が二の次になっています。
地域の人たちが総出で葬儀を手伝い、亡くなった順番に集落の墓地に土葬されるのが当たり前だった時代には、家族の有無にかかわらず、自分の死後に不安を持つ人は少なかったはずです。
死の迎え方や葬送の選択肢が増え、さまざまな情報が飛び交う反面、「どんな葬送がいいのか」「誰がやってくれるのか」という不安が増大してきたのは、持ちつ持たれつの互助関係が消滅し、社会の無縁化が進んできたからに他なりません。
介護が必要になったり、死を迎えたりすれば、どんなに事前準備をしていても、自分で実行することができない以上、自分の思いを理解してくれる人に代行してもらうしかありません。
人生の終しゅう焉えんを考えることは、家族やまわりの人との関係を見直すきっかけにもなるという意味で、終活は、自分が自立できなくなったときに誰かに任せられる関係を築く「結縁」活動だといえるのではないでしょうか。