永代供養墓のQ&A
お墓は、人生の最後に誰もが入る場所です。今、お墓は跡継ぎが守って次代へつなぐものという概念が崩れ始めています。従来では考えられなかったお墓の形態や供養の方法が広がりつつあります。新しい供養の方法と、花巻市内の墓地の情報をお知らせします。お墓の購入や供養方式の選択の参考にしていただければと思います。
お墓は必ず建てなければなりませんか。
必ずつくらなければいけないというものではありません。散骨や自然葬、手元供養もできます。
自宅にお墓を建ててもよいですか。
「墓地、埋葬等に関する法律」により、墓地以外の場所での埋葬は禁じられています。自宅の庭のほか、所有している山林にお墓を建てることもできません。墓地の開設には、公衆衛生上、場所の制限があり、都道府県知事の許可が必要です。
子供がありませんが、将来の供養はどうしたらいいでしょうか。
永代供養墓地、共同墓地を利用できます。
永代供養墓地とは、どのようなものですか。
生前に永代使用料を前払いしておくものです。寺院墓地でしたら、ご住職に相談なさってください。一般的な永代供養料は 50 万円と言われています。
共同墓地とは、何ですか。
地域に住む人や志に賛同する人々が同じ墓に入るというものです。個々の墓ではなく、石碑や供養塔などの広い地下納骨スペースなどに、共同で骨壺を納めます。共同体や市民団体が運営・管理します。「集合墓」「合葬墓」「総墓」などと呼ばれることもあります。
他人の遺骨と一緒になることに抵抗感がある方には向きません。家族の同意もあったほうがよいでしょう。
個人で墓石を購入する必要がないので、従来の墓地よりは安く求められます。
残念ながら、岩手県では見つけられませんでした。宮城県には既に開設されています。
お墓を移すことはできますか。手順を教えてください。
できます。お墓を移すことを改葬と言います。改葬の手順は次のとおりです。
①新しいお墓の管理者に「受け入れ証明書」を発行してもらう。
②古いお墓の管理者に「埋葬証明書」を発行してもらう。
③新しいお墓のある市町村役場に申請して「改葬許可書」を公布してもらう。
④古いお墓の管理者に「改葬許可書」を提示して、お寺の住職に「お魂抜き」(お墓を引き払う供養のこと)をしてもらう。
⑤新しいお墓の管理者に「改葬許可書」を提出して、改めて納骨の供養をしてもらい新しい墓籍簿に記入します。
改葬する際の注意を教えてください。
質問6の手続を行う前に、いまの墓地へ事情を説明する必要があります。
特にお寺のお墓を移す場合は、よく理解してもらった上で、トラブルが起きないよう話を進めていくことが大切です。
事前に何の相談もなく、一方的に改葬の手続きを進めてしまうと、高額な離檀料を請求されることがあるようです。また、質問6の②で述べたように、墓地の管理者に署名・捺印入りの埋葬証明書を発行してもらわなければいけないので、改葬の理由を冷静かつ誠実に伝えましょう。
親族にも同様に説明が必要です。
改葬の費用はいくらぐらいかかりますか。
新しい墓の工事費、新しい墓の永代使用料、元の墓を撤去して更地に戻す費用、石碑の運搬料、開眼供養などへのお布施が必要です。新潟から東京へ石碑と遺骨を移した場合、253 万円かかったという例が新聞に載っていました。
岩手県沿岸から内陸への改葬ではそこまでかからないとは思いますが、かなりの出費にはなりそうです。
石碑の持ち込みが禁止されていることも多く、その場合には新しい墓地に新たに墓石を建てなければならないので、その費用もかかります。
また、寺から離檀料を請求されることもあります。これは1万円から50万円とさまざまな例が報告されています。
「お墓を買う」と、その土地を所有できるのですか。
墓地の購入とは、正確には「永代使用権を買う」ことです。土地を所有する権利を買うのではありません。その権利の内容や制限は墓地によって違うので、買うときには契約内容(年会費、管理料、使用権がなくなるのはどんな場合か)や規則をよく検討しましょう。
自然葬とはどのようなものですか。
従来の石碑を建てたお墓ではなく、遺骨を直接自然へ還したり、墓標として自然物を用いるものを指します。墓でなく、海や山などに遺体や遺灰を還すことにより、自然の大きな循環の中にかえろうとする葬送の方法です。
墓地や霊園を造成しない環境に優しい葬送方法として注目されています。また、お墓を継承する人がいなくともよいというメリットもあります。
具体的には散骨、海洋葬、樹木葬などがあります。
散骨はどのようなものですか。
船や飛行機での散骨のほか、山での散骨もあります。宇宙葬というのもあるそうです。節度を守った散骨であれば問題はないとされています。
海の散骨の場合は、骨は米粒より小さくしておくこと。山の散骨の場合は、骨は灰にしておくことが必要です。
また、散骨しても墓を建てる方もいます。
海洋葬について教えてください。
船をチャーターして海に散骨します。現在では海洋葬を扱う業者は増えており、海での散骨の費用は5~20 万円くらいです。船に乗り込まなくても、業者に委託することもできます。
生活保護を受けている方、東日本大震災の被害を受けた方で、その会社の定める条件を満たしていると認められた場合、海洋散骨葬を無料でやってくださる会社もあります。
樹木葬について教えてください。
墓石ではなく、樹木を墓標(目印)として遺骨を埋葬し、供養する方法です。
手元供養について教えてください。
手元供養とは「お墓を建てたいが高くて買えない」「すでに墓はあるが、遠方のため気軽にお参りできない」といった人のために、遺骨を自宅においておく方法です。
現在の墓地埋葬法によれば、適切に死亡届が出され、火葬された遺骨であれば、墓地に埋葬しようがしまいが自由だそうです。日本でも近年、手元供養の利用者が増えています。
遺骨をセラミックで固めて横20センチ、縦10センチ程度のプレート状にしたもの、遺骨をペンダントに入れたもの、ミニ骨壺入れたもの、遺骨を固めて仏像状にしたもの、インテリアとしても有用なオブジェにしたものなどさまざまあります。値段も1万~100 万円とまちまちです。
「故人をいつも身近に感じていたい」「近くで見守ってほしい」という思いを叶えてくれるものといえます。
永代供養墓とは?
墓革命
発端は、1985(昭和60)年に始まった比叡山延暦寺の「九遠墓」です。
これ以降、後継ぎを必要としない「永代供養墓」は、仏教寺院を中心に広まって行きました。
これは、社会的にも意識的にも「家族」そのものが大きく変容してきていることの現象の一つでした。
この現象を別の視点から見れば「墓革命」と言えるかもしれません。
この後、公営墓地には、「合葬式墓地」「合葬墓」などの名前が付けられたお墓が出現しました。
これらの墓は、全国の寺院墓地、民営墓地、公営墓地に展開され、現在その数はおよそ500ヶ所を超えていると推定されます。
旧来、墓地では後継ぎのいない死者は寺院の慈悲で「無縁塔」に葬られていました。
供養は寺院が存続する限り行う
従来の「永代供養」とは、位牌等に戒名を記して寺の位牌堂に安置し、寺として供養を続行するということであって、墓そのものを永久に保存すると言うことではありません。
もちろん、永代供養墓が永代に供養されるといっても、遺骨を骨壺に入れ永久に保存するものでもありません。
予め相互で交わした約束(約款、使用規則)に基づき、場合によっては最初から、あるいは十三回忌、三十三回忌等を経て、他の遺骨と一緒にします。
つまり、最終的には文字どおりに「合葬」し仏教寺院は、死者の供養を寺院が存続する限り行うと言う仕組みです。
既存の墓地、納骨堂が「永代使用」といっているその意味は,「後継ぎ(墓を守る者)がいる限り、期限を定めず、墓所して使用を許可する」ということであり、後継ぎが現れずに「無縁」になった場合には、墓埋法により墓所は墓地管理者の手によって改葬されます。
1980年代ごろから、独身者や子どものいない夫婦等墓の継承者のいない人々の存在が社会的に注目されてきた。なぜなら当初は、継承者がいなければ、あるいは遺骨がなければ墓を売らない寺院や霊園が多かったのである。そこで、こうした人々の受皿として、家族による継承を前提としない新しい形態の墓が誕生した。
低価格な省スペース型
昭和60(1985)年、比叡山延暦寺が教宗派を問わず、継承者を必要としない「久遠墓地」を販売した。同墓地には、個人墓、夫婦墓のほか、3~4名の納骨が可能な墓もある。墓地永代使用権に石碑代・永代供養料・永代管理料・法要諸費用等を一括納付することにより、比叡山延暦寺大霊園が墓地・石碑等の管理清掃を行い無縁仏にならないことが約束されるという。
継承者を必要とせず、寺院・墓地管理者が永代供養を行うこの種の墓は、生前に申し込むのが一般的である。久遠墓地のように従来型の墓石を建てるもののほか、板状の墓石を壁状に設置し墓地区画を節約する壁型墓地、ロッカー式墓地、合葬式墓地、納骨堂等の形態もある。特に都市においては増大する墓需要にこたえるため低価格な省スペース型の墓が多く供給されているが、その背景には供給側の事情として、継続的な管理費等の収入が期待できないことから販売数を増やす必要性も考えられる。
ちなみに、これまでも家墓の永続性が前提となっていたものの、例外的に、継承者が絶える家の者が寺院に布施をし、33回忌までの弔い上げを依頼することは行われてきた。この場合、一定期間の経過後墓は片付けられ遺骨は境内の無縁塚等に合祀された。また、何らかの事情により継承者が絶えた場合にも、事実上永代使用権は消滅し、墓は「無縁」として改葬される。これらの背景には祖先祭祀は家族にゆだねられるものという考え方があるが、家族以外の者が祭祀を行うことを前提とする墓の登場は、大きな発想の転換であると言えよう。
永続性には疑問も
現在、永代供養については、法的な基準がなく、供養期間は墓地の経営主体によって異なる。さらに、墓地の経営主体については、墓地の永続性の観点から、営利企業はふさわしくないとの国の行政方針が提示されているものの、営利企業が経営の実権を握る宗教法人による名義貸しの事例等が指摘されている。さらに、過疎地域等では寺院もまた継承者不在という問題を抱えるなど、墓地の永続性や永代供養の実行可能性には疑問が残る場合もある。契約の際には、永代供養の期間のみならず、墓地の管理についての適正な管理費の設定及び内容の明確化等、墓地経営に関する情報の開示を求めることが必要である。
なお、公営墓地においても継承者を必要としない墓への需要増大を受け、供給が行われ始めた。東京都立霊園においては、平成3(1991)年度に壁型墓地、平成5(1993)年度に大型の納骨堂である長期収蔵施設、平成10(1998)年度には合葬式墓地の供給が行われており、現在では、最終的に共同合祀を行う継承不要な墓が供給の中心となっている。
最近の葬儀サービス・お墓事情
変わる葬儀サービス
昨今、亡くなって葬儀業者の世話にならない人は、ほとんどいないでしょう。仮にお葬式をしないとしても、棺の用意や火葬場までの搬送を葬儀業者に依頼するのが一般的です。
お葬式の良しあしは、担当するスタッフの質によって大きく変わるので、従業員が何人もいる大きな葬儀業者がよいとは限りません。
見積もり額が安い業者は、安かろう悪かろうという可能性も考えられます。むしろ、見積もりの内容や項目が明確であるか、1つひとつについて納得できる説明をしてもらえるかが重要です。
自宅でお葬式が行われるのが一般的だった頃には、葬儀業者の主な仕事は、自宅での祭壇の設営や飾りつけ、幕張りなどでした。
現在、お葬式を請け負う業者には、専門葬儀業者のほかに、冠婚葬祭互助会(以下、互助会)もあります。互助会は、月々定額を積み立てて、結婚式やお葬式の費用に充てるしくみで、戦後に誕生しました。
昨今のように、結婚しない(あるいは、派手な結婚式をしない)、お葬式をしない(あるいは、家族だけでこぢんまりとしたお葬式をする)といった選択肢を誰も想定していなかったため、家庭内で必ず出すことになる結婚式やお葬式の費用を準備しておこうという消費者側のニーズもありました。バブル期には盛大な葬儀が増えたこともあり、1990年代以降は互助会や葬儀業者にすべてを任せるようになりましたが、同時に葬儀費用が高騰したため、ますます事前にお金を備えておく必要が出てきたのです。
ちなみにお葬式にかかる費用には、大きく分けて「葬儀施行費用」「飲食接待」「宗教費用」があります。参列者の数によっても費用は違いますし、宗教色のないお葬式では宗教費用はかからないなど、どんなお葬式にするかによっても異なりますが、葬儀費用の平均は年々、下がる傾向にあります。最近では、インターネットを通じて葬儀の見積もりを提示し、葬儀業者を遺族に仲介する業者が何社も出てきています。
仲介業者自体は葬儀業者ではないので、何かトラブルがあったときに責任の所在がはっきりしないほか、提携する葬儀業者がそもそも良心的なのかどうかが分からないという問題もあります。
互助会や葬儀業者と生前に契約したり、仲介業者に紹介してもらったりする場合には、自分はどうしたいかを家族と一緒によく話し合ったうえで、数社から見積もりを取って、依頼先を決めておきたいものです。
規模の小さなお葬式
ここ数年、参列者が少ない規模の小さなお葬式が増えています。
公正取引委員会が2005年に葬儀業者に行った調査によれば、個人葬の参列者数が5年前と比較して減少したと回答した業者は67.8%に上りました。
第一生命経済研究所が2012年に実施した調査では、「身内と親しい友人だけでお葬式をしてほしい」と回答した人が33.1%、「家族だけでお葬式をしてほしい」と考える人が30.3%おり、合わせて6割以上が、家族を中心としたお葬式を希望していました。一方で、「従来通りのお葬式をしてほしい」と考える人はわずか9.0%にとどまりました。
家族だけで、あるいは家族と親しい友人だけでお葬式をしたいと考えている場合、いつの時点で、誰に死の事実を知らせるかというタイミングがとても重要になります。
亡くなってすぐに故人や遺族の関係者に訃報の連絡をすれば、家族葬をしようと思っていたのに参列者が大勢集まったという想定外のことになりかねません。
故人が非常に高齢で、遺族の数が少ない場合には、火葬のみですませるという遺族もいます。遺族数人だけのお別れであれば、華やかな祭壇を作ったり、葬儀会館を借りたりせず、自宅で故人と静かに一晩を明かしたいと考える傾向があるからです。
東京都内ではこうした「直葬」は3割近くに上るとされています。またお通夜をせず、告別式から火葬までを1日ですませてしまう遺族もいます。
こうした1日葬は、高齢の親族が遠方から参列するなど、遺族の都合が優先されることが多いようです。
家族を中心にした小規模なお葬式の中にも、さまざまなやり方があることが分かります。しかし参列者が少ないからといって、家族葬の費用負担が少ないとは限りません。香典が入らないので、葬儀費用のほぼ全額が遺族の自己負担となることに留意しなければなりません。
家族葬では、料理や花などオリジナルの演出に費用がかかる可能性もあります。費用の面以外でも、義理や世間体を重視するのではなく、故人と親しい人だけで送りたいと、家族葬を選ぶ人もいます。
これまでのやり方のお葬式では、義理で参列する弔問客の応対に追われ、故人とゆっくりお別れできないという不満や、お仕着せのお葬式のあり方に疑問を抱く遺族も増え、こうした不満が「家族だけで葬儀をしたい」という意識につながっています。かつてのように白や黄の菊だけの祭壇ではなく、色とりどりの洋花や故人が好きだった色をイメージするなど、明るい雰囲気の祭壇が増え、故人が好きだった歌を流したり、合唱したりする演出もよく目にするようになりました。
多様化するお墓
お墓についてもバブル期以降、元気なうちに選んでおく人が増えています。
生前建墓が相続税対策になると、墓石業者が触れ込んだことが背景の1つにあります。
日本のお墓は、子々孫々での継承を前提としているところに特徴があります。
しかし昨今、少子化、非婚化、核家族化が進み継承者がいない家庭が増えています。
子孫がいても遠く離れて暮らしていれば、頻繁にお墓参りするのは不可能です。
実際、墓や祭さい祀しの継承が困難になった無縁墓の増加が全国各地で問題となりつつあります。
今後30年間は、死亡人口が急増する反面、人口の減少でお墓を守る人が少なくなります。
過疎化が進む地域では、無縁墓が増加するのは明らかで、子々孫々での祭祀継承が現代社会にそぐわなくなっているのです。
そのためいわゆる「墓じまい」という墓の引っ越し、「改葬」をする人もいます。
改葬は、現在の墓地の所在市区町村で改葬許可の手続きをする必要があるので、勝手に移転することはできませんし、更地にして返還しなければなりません。
地方から子孫が住む都市部への引っ越しもありますが、寺院墓地から民間霊園や公営墓地に移す人も少なくありません。
寺院墓地に墓があると、墓の年間管理料以外に、護持費(寺院の維持管理費等)や盆・彼岸のお布施などの出費があったり、本堂建て替えや修理のときには寄付をしなくてはならなかったりすることが、重荷になっているようです。
こうした菩ぼ提だい寺との関係を切るための改葬が最近目立っているように感じます。ところがお墓を引っ越しする際に、お寺が法外なお布施を要求し、トラブルになることもあります。墓地の管理者である住職が「埋葬証明書」を出してくれなければ改葬許可が下りませんので、境内墓地にお墓がある場合は注意が必要です。
お墓を引っ越し、檀家をやめる際には、これまで世話になったお礼を包むのは当然ですが、こうした法外な「離檀料」を請求された場合には、お寺が所属する宗派の本山に相談しましょう。
ちなみに「離檀料」という概念自体、ありません。
一方、継承を前提とする祭祀財産としてのお墓のあり方に疑問を持つ人もいて、また、継承を前提としない「永代供養墓」や、血縁を超えた人たちと一緒に入る「合葬墓」への関心が高まっています。
このタイプのお墓は子々孫々での継承を前提としていないので、お寺や自治体が存続する限り、無縁化する可能性がありません。たくさんの人が納骨されているのでお参りする人が絶えないという利点もあります。お墓に対する価値観は人それぞれで、「血縁がなくても大勢で入れば、にぎやかでいい」と考える人もいます。もちろん、家族で入ることも可能ですし、経済的な理由で選ぶ人も少なくありません。
個別に墓石を建てないので、合葬式のお墓は一般的に費用が安いからです。
なかでも、墓石の代わりに木を植える樹木葬墓地は、ひとつの木の下に大勢を納骨する形式が一般的で、墓石がない分、さらに廉価な費用で納骨できる場合が多いようです。
手元供養(遺骨を自宅で安置すること)や散骨など、お墓に入らない選択をする人もいます。「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、墓埋法)では、遺骨を墓地以外に埋蔵してはならないとしていますので、手元供養は問題ありません。散骨についても、自治体の条令で禁じていない限りは規制の対象外です。
実際、第一生命経済研究所の調査では、自分のお墓は要らないと考える人は2割以上に上っています。
社会の変化や価値観の多様化で「死んだら先祖とお墓に入るのが当たり前」とは限らなくなっていることが分かります。
「お墓を買う」とは
ところで、そもそも「お墓を買う」とはどういうことなのでしょうか。
実は、墓石が立っている土地は使用者のものではありません。
お墓を買うとは「墓地の永代使用権を取得すること」をいい、専門的には、霊園の運営主体と墓所使用契約を締結することを指します。
また永代使用の「永代」は永久や永遠ではなく、代がある限りという有期限を意味します。つまり、永代使用権とは、使用者が途絶えない限り、墓地を使用できる権利であって、墓石を建てるための土地を買ったのではないのです。簡単にいえば、借地に自費で墓石を建てるのですから、使用する人が責任をもって管理できなくなれば、使用権は消滅することになります。
ちなみに、更地にしても永代使用料は返還されませんし、永代使用権や土地を転売することもできません。
1999年に墓埋法が一部改正され、無縁墓の手続きが変更されました。墓地の運営者は、無縁墓になっていると思われる場所の使用権を持っている人に対して、1年以内に墓地事務所に申し出ることを官報に掲載すると同時に、そのお墓がある場所に立札を1年間掲示します。
そのうえで、1年以内に申し出がなかった場合に、墓地の運営者は無縁墓を撤去できます。
お墓を建てるときに必要な経費には、大きく分けて「永代使用料」「年間管理料」「墓石建立費用」があります。「永代使用料」は永代使用権を取得する費用ですので、墓地運営者との間でいったん使用契約を締結すれば、解約しても返金されない点に注意が必要です。また「年間管理料」は、墓石を建てなくても、契約時からかかります。年間管理料自体は数千円程度ですが、滞納すれば使用権が抹消されたり、無縁墓と見なされ、前述のような無縁墓の手続きに入ったりする可能性があります。
例えば東京都の都立霊園の場合は、年間管理料を5年間滞納すれば使用権は抹消されることが、霊園規則にうたってあります。
一方、「墓石建立費用」はどんなお墓を建てたいかによって大きく変動します。墓石購入契約は、石材店との契約です。建立費用には、墓石費用以外に、石の加工費や施工費、外柵費用がかかります。
最近は、故人の趣味だったピアノや自宅等をかたどったオリジナルの個性的な墓石が増えていますが、手の込んだ形の墓石も加工費が高くなりがちです。
ロッカー式の納骨堂であれば墓石建立費用はかかりません。
死の迎え方や葬送の選択肢が増えた背景
「終活」という言葉が流行し、人生の締めくくり方を元気なうちに考え、準備しておこうという気運が中高年の間で高まっています。しかし死は当人だけの問題ではなく、死者を取り巻く家族や友人、ひいては誰もが死にゆくという意味では、社会全体の問題なのです。ところが終活は、「私の死」という視点が大きくクローズアップされ、「大切な人の死」を体験する遺族への配慮が二の次になっています。
地域の人たちが総出で葬儀を手伝い、亡くなった順番に集落の墓地に土葬されるのが当たり前だった時代には、家族の有無にかかわらず、自分の死後に不安を持つ人は少なかったはずです。
死の迎え方や葬送の選択肢が増え、さまざまな情報が飛び交う反面、「どんな葬送がいいのか」「誰がやってくれるのか」という不安が増大してきたのは、持ちつ持たれつの互助関係が消滅し、社会の無縁化が進んできたからに他なりません。
介護が必要になったり、死を迎えたりすれば、どんなに事前準備をしていても、自分で実行することができない以上、自分の思いを理解してくれる人に代行してもらうしかありません。
人生の終しゅう焉えんを考えることは、家族やまわりの人との関係を見直すきっかけにもなるという意味で、終活は、自分が自立できなくなったときに誰かに任せられる関係を築く「結縁」活動だといえるのではないでしょうか。
様々な葬送の形
散骨(自然葬)
- 散骨とは 遺骨や遺灰を、川や海あるいは山などに撒く「自然葬」の一種に「散骨」と言う葬法が有ります。
- インドで遺灰をガンジス川に撒くという葬送はよく知られています。
日本では自然葬を推進する「葬送の自由をすすめる会」がこれまで神奈川県の相模湾などで数度にわたって自然葬を実施してきています。
散骨を「お葬式」と考えるよりは、「お墓」をどうするかと言う問題に近いと考えます。
また多くの方は、散骨と自然葬を同じように考えているようです。 - 散骨と墓埋法 墓埋法第4条1項に「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域 にこれを行ってはならない」とあります。
- 「散骨」は埋葬でも埋蔵でもないので条文の対象外となります。
厚生省の非公式な見解として「墓埋法は土葬と火葬が半々だった戦後の混乱期の1948(昭和23)年に出来たもので、勝手に土葬して伝染病が拡大しないようにという、公衆衛生上の問題のほうが大きかったのではないか」との発言がありました。さらに「当時は遺灰を海や山に撒くといった慰霊の方法は、役人の頭の中には全くなかったようだ」との発言もあります。
現在の墓埋法には、「散骨」等についての記述がなく実情に合わない部分があるとして新たな法制化を求める動きもあります。 - 散骨と刑法 遺骨の遺棄を禁じる「遺骨遺棄罪」の規定が有ります。
- 「葬送の自由をすすめる会」では「葬送のために遺灰を撒くということは遺骨遺棄にはあたらない。
特に故人の遺言や遺族の承諾があって、公序良俗にかなった方法で時と場所を選べば、犯罪構成要件には全く当らない」と述べています。
法務省が発表した散骨(自然葬)に関しての公式な見解としては、 1991(平成3)年「葬送の自由をすすめる会」が相模湾で行った自然葬についての見解があります。マスコミ報道された事例を受けての法務省発表を以下記します。
「 刑法190条の規定(遺骨遺棄等)」は、社会的習俗としての宗教的感情などを保護するのが目的であり、葬送のための祭祀で節度を持って行われる限り問題はない。」
また、所轄の厚生省も墓埋法第4条1項の『埋葬又は焼骨の舞蔵は、墓地以外の区域にこれを行ってはならない』に関して、「自然葬を禁じる条文ではない」とコメントしています。 - 個人の散骨 いつも会えるような気になるので、夫の遺骨を自宅の庭に撒きたいという方がいらっしゃいます。
- 「墓埋法」では、墓地以外の場所に焼骨や遺体を埋葬、埋蔵することを禁じています。
しかし、法務省が出した「節度を持って行われる限り問題はない」という見解との兼ね合いはどうでしょうか。
結論としては、残念ながら住宅地で遺灰を撒くという行為は、節度のないものと判断されてしまうことと思われます。
遺灰が風に乗って舞うということも考えられますし、隣近所の人たちにとっては、良い気分のものではないはずだからです。
どうやら「散骨」は、他人に影響を及ぼさない大自然の中しかないようです。
葬送の自由をすすめる会
- 自然葬第1号
- 1991(平成3)年10月5日。
ジャーナリストの安田睦彦氏を代表とする市民団体が、海や山に遺灰を撒く「散骨」を始めました。
同日午前10時、神川県の三浦半島にある三崎港から出港した船(10人乗りのヨット)は、2 時間後相模灘の中央部に到着、細かく砕かれ和紙に包んだうえガーゼの袋に入れられた遺骨が海に投げ入れられました。自然葬第1号です。
これを受け法務省も「節度を持って行われる限り問題はない」との見解を示したことで、「葬送の自由をすすめる会」では散骨による葬送を「自然葬」と名付けました。 - 結成趣旨
- 代表の安田睦彦氏が発表しました「葬送の自由をすすめる会」結成の趣旨は以下の通りです。
「私たちは何よりもまず死者を葬る方法は、各人各様に亡なった故人の遺志と、故人を追悼する遺族の遺志によって自由に決められなければならないと考えます。
ですから、私たちは環境問題や社会問題だけから葬送の自由を主張するものではなく、墓を造る自由を否定するものでもありません。
もちろん、遺骨の散乱を招くような無秩序な葬送の自由を主張するものでもありません。
私たちが『葬送の自由をすすめる会』を結成した目的は、伝統的葬法を復活させると共に、自然の理にかない環境を破壊しない葬法(このような葬法を「自然葬」とよびたい)が自由に行われる為の、社会的合意の形成実践を目指すことにあります。」と述べています。
更に安田氏は、「自然葬は単なる散骨運動ではない」とも述べています。 - 関連する法律
-
- [船員法]
- 水葬の規定ですが、水葬の場合の対象は死体であって明らかに焼骨ではありません。
- [海洋汚染防止法]
- 規定に「船舶からゴミを捨ててはいけない」とありますが、船舶の場合船員の日常に伴うゴミ、汚水等は捨ててもよいことになっていますので、安田氏は「大量に組織的に撒く場合は別として、普通に撒く分には構わないというのが基本的な考え方だから、遺灰を撒いても問題はない」と述べています。
- [廃棄物処理法]
- 規定に「みだらに公共の場所にゴミを捨ててはいけない」とありますが、安田氏は「許諾を得た土地あるいは自分の所有地に遺灰を撒く場合は、少なくとも法には全く触れない。ただし公共の場所に繰り返し組織的に撒く場合には、各知事の許可が必要でしょう」と述べています。
- 米国では散灰(散骨)は、1965年にカルフォニア州で合法化されています。
- 州の条例では「火葬された遺体を海に埋葬する」と表現しています。
細かく砕いた焼骨(遺骨はほとんどが灰状になります)を、3マイル(約5キロ)沖合の海上に、ボートや飛行機等から投棄します。 - 現在の状況
- 「樹木葬」を最初は「山や森林で行われる散骨」、つまり「自然葬」であると、あるいはその一部であると誤解した方が大多数でした。
また、樹木葬を行う人のなかにも「自然葬のいくつかの形態の一つ」と理解している人もいました。
更に、樹木葬の広告にも「自然葬」と記されることはしばしばありました。
厳密にいえば「自然葬」は、「葬送の自由をすすめる会」によって商標登録されていますので、散骨以外に「自然葬」の名称を使用することは制限されています。
いまや散骨は、「海洋葬」等のさまざまな名称が付けられ葬祭業者や海運業者等の手でも実施されております。又直接家族の手で行う例も見られます。
年間死亡者数の約1%(1万人程度)が上限と推測されますが、その件数は不明です。
その他の葬送のかたち
- 海洋葬
- ㈱サン・ライフが取り扱う「自然葬」の商品名です。
同社は、「葬送の自由をすすめる会」の賛助会員で、自然葬実施委託契約を締結しています。 - 音楽葬
- 近年では多くの音楽葬で生演奏が取り入れられています。
基本的には、無宗教で行われる葬儀のスタイルです。 - 個展葬
- ホール(式場全館)をギャラリーにみたて絵画や写真を飾ります。宗教式・無宗教式でも可能な葬儀スタイルです。
- 趣味葬
- ゴルフ・釣り・ゲートボール等の、故人思い出の品々を飾ります。
宗教式・無宗教式でも可能な葬儀スタイルです。 - 友人葬
- 創価学会員の方の葬儀スタイルです。
- 宇宙葬
- カプセルに納められた遺骨は、衛星と同じ軌道を回る星となって地球を回ります。
最短で18ヶ月、長ければ10年以上周回軌道を回り続け、やがては大気圏に突入し、まるで流れ星のように輝きなが消えて行くのです。「散骨」の宇宙版と言えます。 - サイバーストーン
- インターネット上に建立したお墓(電脳墓)のことです。
遺骨の代わりに、声・写真・プロフィール等をメモリアルにします。 - 樹木葬
- 正確には「樹木葬」は墓地(自治体が許可)のことで「樹木葬墓地」と呼びます。
遺骨は、骨壺からあけられ土中に埋蔵され、山(森林)全体が墓地になります。
埋蔵地点には、花木を植え墓石(カロート等)などの人工物は設けないという合意があります。
埋蔵位置が特定(GPS)出来るので、散骨のように遺骨を細かく砕く必要はありません。
お葬式自体は、宗教葬・無宗教葬でも行われます。
岩手県一関市にあるお寺、翔雲寺の千坂げんぽう住職が、1991(平成3)年に発案し、周囲の住民の同意を得て、一関市に申請して許可されたのが「樹木葬墓地」の最初です。
「里山再生」を願い、森林全体を「樹木葬墓地」として許可を得、遺骨の埋蔵地点に花木を植える方式です。
樹木葬墓地が各地に誕生していますが、一関の樹木葬には、樹木葬墓地契約者が支払う使用料により、里山の自然環境を保全するというコンセプト(自然の再生)があります。
今では、北上山系に「奥山型樹木葬墓地」を作り、翔雲寺の別院として、樹木葬墓地用に別法人化した「知勝院」がこれらの運営に当たっています。
その他に、既存の墓地の敷地内にある区画の一部を「樹木葬墓地」としている墓地や霊園があります。
埋葬地点に花木を植えるのではなく、敷地内にあるサクラなどの樹木の周辺に複数の遺骨を埋蔵するスタイルです。
名称も「桜葬」「里山葬」などと呼ばれています。 - 永代供養墓
- 発端は、1985(昭和60)年に始まった比叡山延暦寺の「九遠墓」です。
これ以降、後継ぎを必要としない「永代供養墓」は、仏教寺院を中心に広まって行きました。
これは、社会的にも意識的にも「家族」そのものが大きく変容してきていることの現象の一つでした。
この現象を別の視点から見れば「墓革命」と言えるかもしれません。
この後、公営墓地には、「合葬式墓地」「合葬墓」などの名前が付けられたお墓が出現しました。
これらの墓は、全国の寺院墓地、民営墓地、公営墓地に展開され、現在その数はおよそ500ヶ所を超えていると推定されます。
旧来、墓地では後継ぎのいない死者は寺院の慈悲で「無縁塔」に葬られていました。
従来の「永代供養」とは、位牌等に戒名を記して寺の位牌堂に安置し、寺として供養を続行するということであって、墓そのものを永久に保存すると言うことではありません。
もちろん、永代供養墓が永代に供養されるといっても、遺骨を骨壺に入れ永久に保存するものでもありません。
予め相互で交わした約束(約款、使用規則)に基づき、場合によっては最初から、あるいは十三回忌、三十三回忌等を経て、他の遺骨と一緒にします。
つまり、最終的には文字どおりに「合葬」し仏教寺院は、死者の供養を寺院が存続する限り行うと言う仕組みです。
既存の墓地、納骨堂が「永代使用」といっているその意味は,「 後継ぎ(墓を守る者)がいる限り、期限を定めず、墓所して使用を許可する」ということであり、後継ぎが現れずに「無縁」になった場合には、墓埋法により墓所は墓地管理者の手によって改葬されます。
多様化するお葬式
葬式バブルと原点回帰
高度経済成長時代、冠婚葬祭(結婚式・お葬式)に大きな変化が生じました。
結婚式(披露宴)は、列席者数の多さ、ウエディングケーキの高さ、披露宴で催される様々なイベント、お色直しの回数などが競われ、まさに「結婚式バブル」と言える現象でした。
一方、葬儀に目を向けますと、死者を弔うことを祭壇の大きさや会葬する人の多さ、戒名の位の高さなどで表現する方々が現れました。
特に、葬儀に於ける会葬者の数の拡大自体こそが「葬式バブル」と言えました。
戦後の会葬者の数の増加は、死者本人の同一円(遺族・親族・友人・知人)の拡大が招いたものではなく、死者の子供の関係者(会社の上司・同僚・死者の生前を知らない取引先の方々)が会葬者の輪の中に加わり始めたことでした。
バブル景気崩壊までの会葬者は、大規模ですと 300 人を超し、中規模でも 100 人から 300 人位でした。
今後、会葬者の多い(大規模・中規模)葬儀は、死者本人が社会的関係性の広い人物に限られ、100 人以下の小規模な葬儀が、平均的なものになっていくと思われます。
かつて地域コミュニティーが葬儀を担っていた時代(戦前)、遺族は死者の傍にいて弔いに専念していればよく、親戚や地域の人達がサポートしてくれました。
最近では、死者と十分な別れの時間を取るのに支障をきたす「お客様」を嫌い、家族だけあるいは身内だけでの簡単な葬儀を望む方々が増えてきています。
現在、「家族葬」が支持されていることと無関係では無いように思われます。
このことは、葬儀の歴史から見れば「原点回帰」と言えます。
個人葬(一般葬)と社葬(団体葬)
葬儀を執り行う際、その内容を決める要因の一つに「参加者の範囲」があります。
その葬儀に誰が参加するかということです。
一般の葬儀には、誰が運営の主体になるかの区分はありますが、どこまで参加させるかという「参加者の範囲」の概念はありませんでした。
運営主体の区分は、大きく二つに区分されます。
一つは、一般的に「○○家の葬儀」といわれ遺族が運営の主体となる葬儀。
即ち個人葬(一般葬)です。
もう一つは、企業(団体)が執り行う葬儀。
即ち社葬(団体葬)です。
個人葬(一般葬)の変化
一般の葬儀で、葬儀に参加者する人の範囲を考えるようになった背景を考えてみたいと思います。
かつて日本の葬儀は、実質的には地域共同体が担う「共同体葬」でした。
しかし、高度経済成長以降の都市部では、これに会社共同体が加わり社葬ならぬ「会社葬」ともいえる葬儀が出現しました。
もちろんその内枠には、「親戚」と言う血縁共同体も存在しました。
つまり、葬儀の核を中心から見てみますと遺族・親族・地域共同体・会社共同体へと広がり、故人の社会性が広がれば広がるほど地域共同体・会社共同体という外枠が大きく拡大しました。
先ほど2.(1)の『葬式バブルと原点回帰』の項でも触れましたが、高度経済成長以降の葬儀の特徴として次のことが言えます。
死者本人の社会性だけではなく、本人以外の遺族の社会性が大きく葬儀の規模を左右したことです。
息子の会社関係等、死者本人とは無関係の第三者が多数を占めるようになり、死者の生前を知る者が三割、知らないものが七割という葬儀が一般的になりました。
葬儀の本質が「死者を弔う」ことにあるとするならば、死者の生前を知らない第三者が多数を占める葬儀は本質を歪めることになります。
バブル崩壊と時を同じくして、過剰なまでの葬儀への参加者の拡大をどこかで阻止し、参加者の枠を遺族だけに限定するか親戚までとするか、本人の友人、知人、関係者までにするかを、葬儀をする当事者は考えるようになりました。
その背景には、高額な葬儀費用も無関係ではありませんが、重要な要因として「死者との別れ」を大事にしたいという純粋な遺族の思いがありました。
「死者との別れに重きを置いた葬儀にしたい。」
このような発想から葬儀の参加者に枠を設け、遺された遺族(家族)だけの葬儀(家族葬)が支持され始めたものと考えられます。
葬儀は本来、「死者の関係者が共に弔うもの」と言う常識の崩壊が招いた現象なのかもしれません。
残念なことですがここ数年「直葬」という言葉を耳にするようになりました。
葬儀が持つ「社会儀礼」としての面だけが強調され、社会儀礼は要らないと考える人たちの間に「社会儀礼不要=葬儀不要」と言う現象が現れた結果です。
これも又、「常識の崩壊」が招いたことであるとしたら、日本人の「お葬式」に対する考え方、感覚が大きく変化し始めたと言えるのではないでしょうか。
家族葬の現状
葬儀を分類した時、個人葬(一般葬)と社葬(団体葬)に大別され、「家族葬」という種類の葬儀は葬儀社にはありませんでした。
消費者の間では、バブル崩壊後の1995年(平成7)年頃から使用され始めましたので、決して新しい言葉ではないように思われます。
ここ数年は、消費者の大多数の方が「家族葬」を葬儀の代名詞のように使用します。
新聞・書籍・ラジオ・テレビ等マスメディアに取り上げられることが多くなり、「家族葬」は消費者の間に完全に浸透し市民権を得たと言えます。
しかし、消費者の各々が考える「家族葬」は千差万別です。
葬儀を提供する葬儀社と、利用者との間には「家族葬」に対する考え方に開きがあるように感じます。家族葬の現状をまとめました。
- 家族葬の概念
- 家族葬を「安い葬儀」という意味で用いる消費者も少なくないですが、相対的に費用は低めになる傾向にあります。
しかし費用・価格の概念ではないように思われます。
家族葬を決める要因の一つは「参加者の範囲」です。
又、もう一つの要因は「死者との別れ」を大事にしたいと言う家族(遺族)の気持ちです。 - 密葬から家族葬へ
- 「密葬」と「家族葬」を同じように考える方もいらっしゃいますが本来は違うのではないかと考えます。
密葬は一般の人々に公開せず、家族(近親者)だけで執り行われる葬儀のことです。
密葬は一般的に、以下のような場合に行われています。- 年末年始に葬儀の日程が重なる場合。
- 後日、故郷で葬儀を行う場合。
- 後日、社葬等の本葬を行う場合。
- 変死(自殺)等の理由で公開をはばかりたい場合。
どうも密葬という言葉には閉じられた、秘密の、と言うように言葉自体に暗いイメージが連想されたので、密葬という言葉の代わりに、家族で温かく送ってあげようという気持が自然発生的に家族葬という言葉を生み、浸透してきたと考えられます。
家族葬(密葬)は、決して家族だけで行うものではなく、親戚や親しい友人等が葬儀に加わることがあります。形式に流れがちな一般の葬儀に比べ、故人を良く知る人たちだけで、ゆっくりとお別れの時間を持つここが出来るイメージが家族葬には有ります。 - 家族葬の規模
- 一般の葬儀と同様に、家族葬も葬儀にどの様な方が何人参加するかで葬儀の規模が決まります。
一般の葬儀に於ける会葬者の数は、年々減少傾向にあります。
会葬者の全国平均を見ますと、1990(平成2)年は280名でしたが、2005(平成17)年には132名に減少しました。
都内では、100名を超える葬儀がある一方で、20~30名という規模もあり、100名を切っています。ここ数年、傾向的な減少は更に進んでいると言えます。 - 家族葬のこれから
- 家族葬とは、個々の家族に合せて行う葬儀スタイルのことと考えます。
故人に対する想いは家族(遺族)で様々です。したがって葬儀の内容も様々です。
家族葬はこのようにして行うものという限定した家族葬の決まり事はありませ。
「家族葬で葬儀をした」と言う方の中にも様々な家族葬のスタイルがあります。
「家族のみ」、「家族と親族」、「家族と親族と親しい友人」、「家族と親族と親しい友人と一般の方」というように様々ですが、それぞれの方が「家族葬」と呼びます。
しかし、それぞれに葬儀の規模(人数)の大小は有りますが、故人と別れる時間を大切にしたいという気持ちは、どの葬儀でも共通していると思います。
今後、葬儀を「義務感」で出していた時代から、家族(遺族)が「心を込めて葬儀を考え送り出す」時代に向かって行けば、家族葬は「普通の葬儀」(一般葬)にとって代わりますし、家族葬はこれからも増えて行くことと思います。
宗教のないお葬式
- 無宗教葬
- 仏教式の葬儀スタイルは「日本人の常識」といわれ、永く全葬儀の95%前後を占めていましたが、2007(平成19)年には初めて89.5%に下がりました。
日本人で特定の宗教を信じる人の割合は、およそ23%といわれ非常に少ない数字ですが最近では更に宗教離れが進んでいると考えられています。
無宗教葬の流れは社葬に於いて顕著に表れています。
建て前は「取引先の人の信条を考え偏らない方式」と言われています。
しかし、その背景には「企業の合理性」が見え隠れします。
それは、これまでの社葬であれば、葬儀式(宗教儀礼)と告別式とから成っていましたが、無宗教で行えば告別式だけで済むからだと思われます。
社葬ほど普及はしていませんが、最近では一般葬でも見受けられることがあります。
地域社会が入らない「家族葬」が増えてきたことを考えれば、今後宗教抜きの「無宗教葬」が普及しないとは言えません。 - 無宗教葬の問題点
- 厄介、面倒、古臭いという理由で葬儀から宗教を取り除いたら何が残るのでしょうか。
葬儀はファッションではありません。
死の事実の厳粛な確認と、死別の悲嘆への共感、命の継承、これらは葬儀に欠かせません。
その為に宗教が果たしてきた葬儀の「核」としての役割を簡単に取り去ってはいけないと思います。
直葬(火葬のみ・荼毘)
ここ数年「直葬」という言葉を良く耳にするようになりました。
もとより「直葬」という言葉は新しい用語です。
しかし、既に都内では直葬(火葬のみ・荼毘)が全葬儀の3割を超えたという数字もあるようです。
直葬は、葬儀(通夜、葬儀式、告別式)をしないで、火葬(荼毘)だけを行うことです。
かつては、生活困窮家庭や身寄りの無い人の葬儀形態としてあったものですから、決して新しい形態ではありません。
新しいのは、生活困窮者でもなく、身寄りがある人の葬儀形態としても「直葬」が選択されるようになったことです。
増加している要因として、日本人の葬儀に対する感覚が変化してきていることが考えられます。
(3)『個人葬(一般葬)の変化』の項でもお話し致しましたが、葬儀が持つ、社会儀礼としての面だけが強調され「社会儀礼不要=葬儀不要」となったのではないでしょうか。
それでも、「死者を弔う」という感覚まで無くしたのではなく、また「死者を弔う」ことを放棄した訳でもないと思います。
その証拠に、直葬(火葬のみ・荼毘)でも、宗教者(火葬炉前の読経)が介在するケースが見受けられます。
お葬式の基礎知識
お葬式はなぜするのですか。
なぜ人はお葬式をしてきたのでしょうか。
お葬式をすることがあたりまえであったのは「遺体は弔わなければならない」ということが「なぜお葬式をしなければならないのか」と考える以前に、ごく自然な人間的感情として存在したからだと思われます。
お葬式4つの役割
人が亡くなると一般的にはお葬式をしますが、お葬式には概ね次の役割があると考えられます。
- 社会的役割
- 社会にその人の死を通知(死亡届を役所に提出)します。社会の人々がお葬式に集まりその死を確認します。
- 物理的役割
- 遺体は腐敗し始めます。死者の尊厳を守るためにも火で燃やすなど(火葬、土葬)の処理を行い死者(遺体)と訣別します。
人は愛惜の念を抱くと同時に遺体が腐敗することへの恐怖心を合わせ持ちます。 - 宗教的役割
- 人の死が新たな死を招き「崇」のようなものを引き起こすのではないかという恐怖心や、遺体が腐敗することへの恐怖心を和らげるために死者の霊を愛惜する儀礼が必要とされました。
死者の霊を慰め「あの世」での幸せを祈ると同時に、死者と遺された者との間に新たな関係を作り上げるために宗教的な儀礼が必要とされ、これが「お葬式」の中心をなしました。 - 心理的役割
- 人の死は周囲の人に深い悲しみや心の痛みを生じさせます。
特に死者と精神的な関係が密であった配偶者や家族には、大きな衝撃を与え身を切り裂くような深刻な痛みを生じさせます。
衝撃、悲しみ、痛みを緩和するためにも弔いのための儀礼が必要とされました。
しかし、一連の儀礼のプロセスを踏むだけでは痛み(グリーフ)は容易に解決されません。それが癒されるまでにしばし長い時間(グリーフワーク)が必要とされる場合があります。
葬儀とは
死者を葬る儀式であり、死別に出会った人が悲しみ悼む一連の儀礼のことです。
一連とは、臨終の看取りから納棺、通夜、葬儀式、告別式、出棺、火葬、納骨、法事までのことを指します。
広い意味では「葬送儀礼」の略です。
狭い意味では「葬儀式」=「お葬式」を指す言葉でもあります。
一般的に、葬儀に参列するという時に使用する「葬儀」という言葉は、「葬儀式」あるいは「告別式」を指します。
人が死ぬということは、大切な命が喪われることです。
当然のことながら人の死は、社会的にも精神的にも危機状態を作り出します。
それ故に、命の大切さに見合った受け止め方が要請されます。
葬送儀礼を歴史的に見ると、その時代や地域、文化によって様々な形態で営まれてきたことがわかります。
また、その民族が持っている文化や死生観によっても大きく異なります。
共通して言えることは、死者の危機を乗り越えるためには手厚い儀礼が必要であると人々に理解され、葬儀が非日常な特別なこととして営まれてきたということです。
そして、これらが制度化され慣習化されてきたのが弔う為の葬送儀礼、即ち「葬儀」です。
宗教儀礼としての葬儀式
葬儀式は仏教、神道、キリスト教などの宗教儀礼として行われるのが一般的です。
葬儀式自体は宗教儀礼ですのでそれぞれの宗教や宗派で異なります。
日本の葬儀式の90%以上が仏式で執り行われています。
最近では、少しずつですが特定の宗教儀礼に依らない葬儀式も見られます。
これらは、「無宗教葬」とか「自由葬」などと呼ばれています。
もともと「葬儀」=「宗教」ではありません。
したがって、自らの心の問題を解決することが出来れば、宗教で葬儀式を執り行うという方法に頼らなくてもよく、自らの考える葬儀式を行えばよいと思います。
しかし、一部では「無宗教葬」や「自由葬」があたかもファッションの流行のようにもてはやされている傾向にあります。
「無宗教葬」や「自由葬」に慌てて飛びついて、やがて心にわだかまりを残し後悔の念を招くようなことがあれば、それはその人にとって不幸なことだと思います。
葬儀を考えることは、自分の生き方を考えることにも通じますので慎重に考えたいものです。
一般的(仏式の場合)な葬儀の流れ
一般的な仏式葬儀の流れをまとめました。
- 臨終 看取り・死の判定(死亡診断書)・末期の水・死後の処置(清拭)・遺体搬送・遺体安置(枕経)
- 葬儀準備 相談(葬儀会社)・関係先への連絡・死亡届け・火葬許可申請
- 納棺 遺体処置(湯灌・エンバーミング)・納棺(旅支度)
- 通夜 弔問受付・通夜振る舞い
- 葬儀 葬儀・告別式・お別れの儀・出棺
- 火葬 お別れ(炉前)・荼毘・拾骨
- 直後儀礼 初七日法要(繰り上げ・繰り込み)・精進落とし・後飾り
- 諸手続き 保険請求・年金手続き・各種名義変更等
- 喪の期間 喪中(四十九日)・一周忌・納骨・手元供養
- 追悼儀礼 三回忌・七回忌・十三回忌等
葬儀(仏式の場合)5つのプロセス
「お葬式4つの役割」で、お葬式をする4つの役割をお話いたしました。
この項では、葬儀がどのようなプロセスを経て執り行われているのかを、仏式葬儀を例にまとめました。
- 死を受け入れる [通夜]
- 通夜とは、本来夜通し寝ないで故人の傍で過ごす(遺族が故人を囲んでお別れのための十分な時間を持つ)という意味合いがあります。
現状行われている葬儀では、通夜に会葬する方が多く告別式の意味合いが強くなっています。 - 死者を見送る [葬儀式]
- 僧侶による読経や焼香といった宗教的儀式を言います。
- 死を社会的に確認する [告別式]
- 弔辞、弔電の奉読や喪主の挨拶といったセレモニーのことです。
大規模な葬儀(社葬・団体葬)の場合を除いて、通常一般的に行われている葬儀(個人葬・一般葬)では、「葬儀式」と「告別式」が区別なく同時に行われています。 - ご遺体の処理 [火葬・埋葬]
- 市町村長の許可を得て火葬、埋葬します。
また、土葬の出来る場所は都道府県の条例によります。
農山村部の土葬がほとんどですが、東京でも奥多摩の一部では許可されています。
我が国の火葬率は99.5%を超えています。 - グリーフワーク [法要]
- 法要で、故人を偲び供養します。
グリーフワークとは、大切な人の死を受け入れその悲しみを治癒するためのプロセスのことを言います。